智は、再び幸恵の方に体を寄せながら写真を覗き込んだ。
「ああ、それはチベットの人達に”精霊の宿る湖”と言われている湖なんだ。山の間にあって、それはその山の上の方から撮った写真なんだけど、そこから見ると本当に神秘的で、なぜ精霊が宿ると言われているのか良く分かったような気がするよ」
今、智はほぼ幸恵に密着している。肩の辺りから覗き込むように写真を見ている。幸恵の髪が智の頬を軽くくすぐる。汗と体臭の入り交じった女の肉の香りが、智を執拗に刺激する。
「精霊の宿る湖ですか。何だか凄くロマンチックな感じのする響きですね。チベットの人達は、本当に精霊だとか、神様だとか、そういったものを信じながら生活しているんですね。どうです、智さんはそういうの信じますか?」
と、幸恵がそこまで言って智の方を振り向こうとしたその瞬間、幸恵は突然智に押し倒された。幸恵は、あまりにとっさのことに驚いて、今、何が起っているのか良く理解できない。智は、荒々しい息遣いで幸恵の首筋に顔を埋める。幸恵の顎の下の辺りにむしゃぶりつくと、薄らと塩の味がした。肌は、まるで夏の浜辺のような香りで満たされており、それらがますます智の欲情を掻き立てる。腕を背中に回して手の平で全身を撫で回しながら、思いっ切り幸恵の肉体を抱き締める。ぽってりとした女の肉の弾力と、智の胸の辺りで押し潰されている幸恵の豊かな乳房が、智の全身を包み込む。智はこのまま幸恵を喰ってしまいたかった。この柔らかな肉体にかぶりつき、頭から幸恵の肉の中に突っ込んでしまいたい。下半身を幸恵の股の間に割り込ませる。幸恵の履いているエスニックな色彩のスカートが腰の辺りまでめくれ上がり、白い太ももが露出する。智はその太ももを思う存分撫で回す。
「ちょっと、智さん、止めて下さい!」
事態をようやく把握した幸恵は、慌てて智にそう言った。しかし智は、猛烈な勢いで幸恵の首から胸にかけてを舐め回しており、全く聞く耳を持たない。
「智さん、本当に止めて下さい! お願いします!」
幸恵の言うことなど智は全く聞いておらず、突き放そうにもぴったりと密着されていて幸恵の力ではどうすることもできない。幸恵は、抵抗することを諦める代わりにあらん限りの力を振り絞って、叫んだ。息が続く限り叫び続けた。智は、突然耳元でそんな大声を出されたものだから、驚いて反射的に体を離した。間髪入れずに幸恵は智の頬を思いっ切り平手打ちした。智は、まともにそれを喰らって、勢いでベッドの下へ転がり落ちた。転がり落ちて、置いてあった椅子の角で頭を打った。あいた、と叫んで智はそのまま床へ倒れ込む。肩で息をしながら幸恵は、ベッドの上から智のその様子を見下ろした。そして衣服の乱れを直しながら、智に言った。
「智さんが悪いんですからね!」