生きている意味

いや、理由はあるのではないか? 河が流れるのには、何らかの意味があるのではないか? それと同じく、人が生きるのにも理由や意味が……。もしそうだとしたら、その意味は? 何故俺は生きて、ここに存在する? インドを旅する理由は? 皆に出会って、別れる理由は? 人が生きて、死んでいく理由は? 生きている内に笑ったり、泣いたり、喜んだり、悲しんだりする理由は? それらに意味や理由があるからこそ、死や別れの辛さを乗り越えられるのではないだろうか。寂しさや悲しさに絶え得るのではないだろうか。生きていることに何の意味も見い出せないのだとしたら……。きっと死神に捕まってしまうだろう……。直規の言っていた、死神に……。ただ、その生きる意味とは……。分からない。俺には、分からない……。

智は、再び体に痛みを感じ始めた。部屋の中は暗い。窓から覗く猛烈に白く輝く世界が、余計に部屋の中の暗さを際立たせる。汗の染み込んだシーツに寝返りを打つ。独特の臭気が鼻を突く。視線の先には、智の描いたシバ神がこちらを見つめていた。それは、安らかに微笑みながら踊っている。ヒンドゥーの伝説によるとガンガーは、結ったシバの髪の間から吹き出しているのだという。

ああ、シバよ、あなたは何故、河の流れを造るのだ? 何故、この世の中に、生命というものを生み出したのだ? 何故、人は生きねばならないのだ?

智は、自分が生きている意味が知りたかった。死や別れというものを乗り越えなければならない理由が欲しかった。しかし、いくら考えても明瞭な答えは出て来ない。ただ、もう一度バラナシに行きたいと思った。そして、ガンガーの流れをただひたすらに、ずっと眺め続けたいと思った。そうすれば何かが分かるような気がしたからだ。少なくとも、ここ、デリーにいるよりは、何かが得られそうな気がした ―――   

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