谷部は、驚いてジョージを見返した。ジョージは、笑って谷部の頬を軽く叩いた。谷部は、頭をゆっくりと左右に振りながら右の拳をジョージに向かって突き付けた。ジョージはその拳に自分の拳を軽くぶつけた。
「俺、明日デリーを出るんだ。パキスタンへ行くんだよ。ようやくビザの手続きも終わったから。朝早くアムリトサル行きのバスに乗るんだ」
「ジョージ、マジかよ? 知らなかったぜ。じゃあ今日でお別れなのか?」
優しく微笑みながらジョージは頷いた。寂しくなるなあ、谷部がぼそりと呟いた。
「また会えるさ」
ジョージは、そう言うと、谷部に向かって手を差し出した。谷部は、その手を掴むと立ち上がってジョージの肩を抱いた。ジョージも谷部の肩を抱いた。それを見ていた建が、智に、どうしたんだ?、と尋ねた。建は、英語でなされているこの一連をどうやら全く理解していないらしかった。建は英語が話せないのだ。ジョージが明日パキスタンへ向かうんで、これでお別れなんですよ、と智がそう言うと、驚いたように建は、え、本当か、と大声で言った。
「ユー、ゴー、パキスタン?」
唐突に建がジョージにそう尋ねると、ジョージは、イエス、イエス、と笑いながらそれに答えた。それを聞いた建は、ジョージと抱き合いながら別れの挨拶をした。更にジョージは、君子とも同じように別れを告げた。そして最後に智のところへやって来て手を差し伸べた。智は、ちょっと緊張しながらその手を握った。
「俺もパキスタンへ行こうと思ってるんだ」
智はそう言った。
「本当に? じゃあ向こうでまた会えるかもね」
「でも、俺が行くのはもうちょっと先のことになると思う」
「フンザへは?」
「ああ、行くと思うよ」
「俺は、パキスタンに入ったら真っ直ぐ北の方へ行くつもりなんだ。多分そこで長く滞在することになると思う。だからまた会うだろうね、きっと。行くんだろ? フンザへは」 微笑みながら智は頷いた。ジョージは智の肩をポンポンと軽く叩いた。
「シー・ユー・イン・パキスタン」
智がそう言うと、ジョージはウィンクでそれに応えた。
「フンザで、またボンしよう」
ジョージは、そう言って、みんなに軽く手を振りながら部屋を去った。