サドゥー

朝日がジリジリと照りつけている。乾燥した空気は、青空とその周りの景色をくっきりと浮かび上がらせ眩しいぐらいだ。智は、宿の方へ向かってとぼとぼと歩き始めた。朝を迎えて町は慌ただしく動き始めている。掃除をする人達や、いそいそと行き交う人達、店のシャッターを開ける人達などが、朝日を浴びて輝いている。

それらの光景を目を細めて眺めながら智はひとつ欠伸をすると、通りに面した食堂でチャイを飲んでいる人の姿を見つけた。そしてそのチャイがとてもおいしそうに見えたので、ふらふらと引き込まれるように店に入っていった。そしてチャイとサモサを注文すると、陽の差し込まない店内から、強烈に眩しい外界を眺めた。色とりどりのサリーを身にまとった女性達が、頭上に果物や野菜のたくさん入った籠を乗せて通りを歩いてゆく。それらの色彩を眩しく照らしつけている日光は、これから訪れようとしている猛烈な暑さを予感させていた。

智は、ぼんやりと去っていった三人のことを考えた。直規達には、女のことでもちろん軽い嫉妬を覚えていたし、それに加えて、一人取り残されたような何とも言えない寂しさと、これからまた一人で旅をしていかねばならないという緊迫した焦燥感が、じわじわと智を襲っていた。智は、ひどく憂鬱な気持ちで熱いチャイを一口飲んだ。鼻からマサラとジンジャーの仄かな香りが抜けていく。それはほんの少しの間、智の重い気持ちをリラックスさせてくれるものだった。

一頭の大きな牛が、のっそりと、細い道を何の遠慮もなく歩いていく。牛は、地面にござを広げて売られている野菜をついばみながら進んでいく。するとその度に、店のおばさんに怒声を浴びせられ、木の棒で頭を叩かれる。叩かれるとのそのそと頭を上げ、また別の売り場へと頭を突っ込む。そしてまた叩かれる。ずっとそんなことを繰り返し続けている。そしてしばらくすると、牛は、智のすぐ目の前をゆっくりと通り過ぎていった。獣の放つ独特の臭気がぼわっと辺りに立ち込める。もともとは黄色だったのだろうが、長年の放浪の果てに染み込んだ泥や汗で茶色く変色したぼろぼろの僧衣をまとった、まるで物乞いのような出で立ちのサドゥーが、何ごとかを呟きながら歩いていく。菩提樹の実で作った数珠を幾重にも首に巻き付け、伸び放題で束になった髪と髭を気にする風もなく揺さぶっている。そしてシバ神の象徴である三つ又の槍を、杖代わりに使っていた。

智は、ぼんやりとそれを見ながらサモサを食べていた。と、その時、ふいにそのサドゥーが智と目を合わせた。彼は、しばらくじっと智を眺めると、ゆっくりと智の方へ近寄った。智は、まずいな、と思った。しかし智のそんな気持ちをよそに、サドゥーは、そのまま店の中に入ってきて智の目の前に立ちはだかった。

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