耐性

「で、どうだったの?」
「いや、何か、思ってたのと違ったよ。もっと凄いの想像してたから……。昨晩の直規達の様子も見てたし……」

直規は、微笑みながら煙草に火をつけた。そして眠そうに欠伸をひとつすると、智の方へ体を向けた。

「俺も帰ってからかなり大変だったけど、心路なんか朝までずっと吐いてたよ。宿の奴が、心配して見に来たぐらい」
「みんな最初はそうなるもんなの?」
「ああ、何回かやってるとそのうち吐き気がしなくなってくるんだ。耐性ができるんだよ。三四日ぐらいかな」
「俺は、今朝やってみたんだけど吐き気は全然しなかったよ」
「量が少なかったんだろ」
「だからかな」
「それか合ってんのかも」

直規は、灰皿に灰を落とすとにやりと微笑んだ。

「でも、そんなに何回も吐いたら辛いだろ? またやろうっていう気になるもんなの?」
「吐いても気持ちいいんだよ」

智の目を見ながら直規はそう言った。

「………」
「吐いて、吐いて、吐いて、しまいに吐かなくなって、そっからが気持ちいいんだ。最高の気分になれる」

智はしばらく無言で直規を眺めた。直規は、少し疲れた様子で煙草を吸っている。

「ところで、心路は? どこ行ったの?」
「ああ、何か買い物行ったよ、トイレットペーパーとか歯磨き粉とかそんなの」

昼間の強烈な太陽が町を熱している。暑い。直規は、上半身裸でベッドに寝そべっている。日差しを避けられる部屋の中はまだましだが、それでも四十度近くはあるだろう。じわじわと汗が吹き出し、滴り、ぐったりとしてくる。ペットボトルの水はもうすっかり生ぬるくなっていた。

「暑いな」

直規は、顔をしかめて煙草を揉み消しながらそう言った。

「やる?」
「え?」
「ブラウンだよ、やらない?」

智は少し躊躇した。

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