直規は興奮してそう言うと、智はそれを制すように言った。
「俺も買うよ」
少し呆然として直規は智を見返した。
「智、マジかよ、無理しなくていいんだぜ、金なら明日返すから無理に買わなくたって今、貸しといてくれれば」
「いや、違うんだ、何となく興味が湧いて来たんだ。そしたらふとドルキャッシュ持ってること思い出してさ。だから気にしなくていいんだ」
「そうか、助かったよ、智、ありがとう」
表情を輝かせながら直規はそう言った。横で項垂れていた心路もほっとしたようにその様子を眺めた。
「幾ら払えばいいんだ?」
智はシバに尋ねた。
「そうだな、グラム八百だから三十ドルぐらいかな、まあ、負けて二十五ドルでいいよ」
智は、少し考えてからシバに向かって言った。
「違うだろう? 今、一ドル大体四十ルピーだよ。だから二十ドルだろ? せこい真似すんなよ」
智がそう言うと、シバは、極まり悪そうに微笑んで肩をすくめた。
「ああ、グラムあたり二十ドルでいいよ、どうだ、これで商談成立だろう? 君達みんなが一グラムずつでちょうどいいじゃないか。むしろ三グラムあって良かったぐらいだ。これも何かの巡り合わせだよ。神の思し召しだ。神は、最初から君達が三人で来るのを分かっていらっしゃったのだ。ラッキーだよ、君達は。本当に」
シバは、金を受け取ると金額を確かめ、満足そうに微笑んだ。タンクトップは、シバの指示で包みの上のブラウンシュガーの山を三等分すると別々に包み直し、一人ずつ手渡した。直規と心路は、それを大事そうに仕舞い込むとシバとタンクトップを横目でちらと見て立ち上がり、危なっかしい足取りでふらつきながら部屋の外へ出た。智は、冷静にその様子を眺めながら彼らに続いた。部屋を出るときシバが、気を付けてな、マイフレンド、と声をかけてきたが誰も返事をしなかった。
外へ出て、自分の手の中にブラウンシュガーの包まれた白い紙包みがしっかりと握られているのを改めて確認した。気が付くと、その手は少し汗ばんでいた。