直規は、しばらくの間、ムズムズする鼻を啜ったり少し指で擦ったりしながら効き目が表れるのを待った。その間に心路は、直規からカードを受け取ると粉をすくって同じように鼻から吸引した。そして鼻を擦りながら、シバに向かって、やる? という風にカードを差し出した。
シバは、目を閉じゆっくりと首を振りながら、いいや、私はやらない、と胸の前で両手を広げた、と、その途端、直規が急に呻き声をあげた。
「うわっ、これ凄ぇ」
直規は、俯きながら立っていたが、次第にゆっくりと膝に手を突き、そのまま床に座り込んだ。そして顔を上げると焦点の定まらない目で辺りを見回しながら、凄いわ、これ……、とぼんやりと呟いた。心路の方も効き目が表れてきたらしく、首を捻ったり瞬きをしたりと、急にそわそわし始めた。
「心路、どう、これ、凄くない?」
直規が、空ろな目で真次を見ながらそう尋ねると、心路も、同じように、ああ、これ、いいよ、と嘆息した。
「今まで俺達がやってきたのと全然違うよ、全然違う……ああ、マジで凄いよ、これ……」
二人は、しばらくそうやってひたすら悶え続けていた。
その様子を見ていたシバは、満足そうにタンクトップと顔を見合わせながらこう言った。
「だから言ったじゃないか、スペシャルだって、嘘じゃなかっただろ? これだけ質のいいのはインドではとても珍しいんだ。君たちはラッキーだよ、こんなのに巡り会えて。三グラムにしといて良かっただろう?」
直規は、向こうの言いなりになったようで少し癪に障ったが、もうそんなことはどうでも良くなっていた。そんなことを考えること自体が下らなく思えてきた。
「ああ、いいよ、三グラム買うよ、グラム八百だから二千四百だな? それでいいんだろ?」シバは、目を閉じゆっくりと頷いた。タンクトップは、腕組みをしながらシバの背後から直規と心路の様子をじっと眺めている。
「心路、金出せよ、千二百だ」
直規がそう言うと、心路は、ああ、分かった、と頷いて財布の中から金を取り出そうとするのだが、財布の中身をしばらく探ると急に黙り込んでしまった。そして申し訳なさそうに直規に謝った。
「直規君、ごめん、俺、両替えするの忘れてたみたい……」
直規は、まさか、という表情で心路を見返した。
「何だよ、金、無いの?」
「ごめん……」
「マジかよ、どうすんだよ、俺そんなに持ってないぜ。一体幾らあるんだよ?」
「三百」
「三百だって? お前よくそんなんでここへ来たよな。ああ、ちくしょう、俺だって千五百しかないぜ、六百足りねぇよ…どうすんだよ」
「ごめん……」
心路は俯いたまま動かない……。直規は、ハッと思いついたように智の方へ目を向けた。