シバと呼ばれるその男は、小柄で、年はタンクトップよりも若そうな感じなのだがどこか落ち着いた雰囲気を醸し出している。切れ長の目が静かに光っており、その瞳は常に遠くを見ているようだった。恐らくハイ・カーストの人間なのだろう。着ているものも小綺麗で、さっぱりとしている。
インドという国は、カースト制という名の階級制度が非常に細かく厳格に設定されており、ハイ・カーストとロー・カーストとの間の親密な交流というものはまずあり得ない。
その為かカーストごとに醸し出している雰囲気のようなものが生まれ、しばらくインドを旅しているとそういったものは何となく肌で感じることができるようになる。シバの風采というのは、紛れもなくハイ・カーストのそれであった。表情に何か自信のようなものが満ちていた。
彼は、心路を見ると柔らかく微笑んで、ハイ、と言った。心路も笑顔で、ハイ、と言ってそれに応じた。シバは、タンクトップとヒンドゥー語で二言三言、言葉を交わすと、待たせて悪かった、と言って紙包みをポンッとベッドの上に放り投げた。直規は、それを手に取るとシバに向かって、開けてもいいか、と尋ねた。シバは無言で首を傾けた。
直規が包みを開くと、薄い茶色の粉が紙の折り目に沿って、漢方薬か何かのようにこんもりと盛り上がっており、それは直規達が想像していたよりもかなり大量にあった。
「これ、一体何グラムあるんだ?」
驚いて直規は尋ねた。
「三グラムだ」
シバは答えた。それを聞いて直規は言葉を詰まらせた。
「はぁ、三グラム? 俺達は、二グラムって言った筈だろ? そうだろ、心路」
心路は黙って頷いた。するとシバは、ゆっくりとした口調でこう言った。
「これは本当にスペシャルスタッフなんだ。これだけのものはインドではまず手に入らない。ちょうど三グラム仕入れられたから、そうしたんだよ。むしろ喜ぶべきことではないか。それに二グラムも三グラムもそんなに変わらないだろう? 君達ジャパニーズは金を持っている。買わないと損だよ、絶対に」
直規は、小さく溜め息をつくと日本語で心路に言った。
「だから言ったんだよ、心路。こいつらこういう奴らなんだよ、ドジンめ、絶対何かあるなって思ってたんだよ」
心路は、無言で直規から目を逸らした。
「いいか、シバ、俺らは、二グラムって言ったんだから二グラムしか買わない。いいな?」
するとシバは、残念そうに首を振り、二グラムでは商売にならない、俺達は普段はもっと大きな仕事をしているんだ、本当ならこんな小さな仕事はしないというのを特別にやっているんだ、三グラム買えないというのならグラム千五百ルピーで買ってもらう、というようなことを言いだした。それを聞いて直規は、冗談じゃないとばかりに怒り始めた。
「お前、ふざけんなよ、グラム千で話ついてんだろ? 千五百なんて出せるかよ」
直規が強い口調でまくしたてると、窓際にもたれかかっていたタンクトップがサッと身を乗り出した。そして直規の鼻先でゆっくりと人差し指を左右に振りながらなだめるようにこう言った。