バナナボートに、銀の月夜

バナナ・パンケーキ、なんて、つまらない食べ物がある。
ホットケーキよりももっと簡単な生地に、バナナを放り込んで焼いただけの簡単な食べ物。
それにはちみつなんか塗って食べる。

長くアジアの発展途上国を旅していると、極端に甘いものが恋しくなるときがある。
それもただ甘いお菓子なんかじゃなくって、もっとこう、西洋的な甘味。
チョコレートだとか、ケーキだとか、そんなの。
一応それらの国々にもあるにはあるのだが、それがまた極端にマズイ。
きっとそれ作ってる人達がおいしいの食べたことないからだと思うんだけど、本当にマズイ。
味がドギツイというか………。
根本から間違っているというか………。

バナナ・パンケーキってのは、不思議とどこの国のツーリストレストランでもメニューにあって、先程述べたように簡単な食べ物だから味もそんなに変わらない。どこで食べても一緒。
でも、これがなかなかいけるのだ。一応,ケーキっていう名前だし、西洋的な甘味としては全く不十分ではあるが、代用品としてはそこそこの線を行っている。
今食べても決しておいしくないのは明らかなんだけど、そういう状況下ではとってもおいしく感じられてしまうんだ、くやしいけど、飢えてると。

甘味っていうのは、とてもセクシュアルなものだと思う。

インドかなんかの山の中の掘っ建て小屋のようなレストランで、はちみつのたっぷりかかった、バナナ・パンケーキを一口かじる。
舌を差すような甘味と、バナナの食感と、生地のふわふわが口の中で混ざり合って、頭のてっぺんを直接刺激する。
とろりとした甘い感覚が徐々に降りてきて、全身の力が抜ける。
もう、失神しちゃう。

何日も何日も甘いものが食べられなくって、食べられなくって、飢えに飢えてようやく、口にする一切れのケーキ。
そういえばチベットにいた頃なんて、茶色の不毛の大地がチョコレートパウダー振ったティラミスの表面に見えて仕方なくって、頭からクリームのなかに突っ込んで、窒息してしまいたかったよ。
欲しくって欲しくって欲しくって欲しくって、でも手に入らない、手に入らない、どうしても手に入らない。
まるで女の子にふられて、身悶えするような感じ。
そんなのに似てるなあ。
決定的にふられたのは分かってるんだけど、どうしてもその子の影がちらついて………。

ああ、バナナ・ボートに銀の月夜で、そして、君がいてくれたら。
君さえ、いてくれればなあ………。

さとうりゅうたの軌跡
さとうりゅうた 最初は欧米諸国を旅するが、友人の話がきっかけでアジアに興味を抱く。大学卒業後、働いて資金をつくり、97年4月ユーラシア横断の旅に出る。ユーラシアの西端にたどり着くまでに2年を費やす。

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