インディアン・ランナー

オレの友達に、映画好きな奴がいた。

今日、オレは「プレッジ」という映画を観て来た。
定年を迎える刑事が、ある殺人事件を追っていく話だ。
とても切なく、やりきれない話だった。
誰のせいでもないのに、みんなが不幸になっていく話。

現実と似ている。
現実は、誰のせいでもないのに、みんなを不幸にしていく。
強すぎる愛情が、情熱が、そういうのを持っているその人自身を、どんどん不幸にさせていく。
オレは、そういうものだと思っている。

その友達は、ニューヨークへ行った。
学校を辞めて、ニューヨークへ行った。
オレの知らない間に。
いつの間にか行っていた。

そいつが。
オレと遊んでた頃。
よく飯を食いに行ったりしてた頃。
 ”この映画観てみろよ” ってオレに渡したその映画。
「インディアン・ランナー」という題名だった。
「プレッジ」と同じ監督が撮ったものだった。
ショーン・ペンという役者が撮った。

それは。
その映画は。
愛情の強すぎる兄弟が、愛情が強すぎるが故に相容れず、離ればなれになっていく悲しいお話。
うまくいかない人達の、悲しいお話。
不幸せな人達の、不幸せな物語。

でもオレは、それにでてくる人達が好きだった。
情熱を秘めてて、思い入れが強すぎて、破滅していく人達。
人を、あらゆるものを愛し過ぎるが故に、破滅していく悲しい人達。
弱さが、罪のないほんの少しの弱さが、人をおとしいれていく……

何だか、切なくて、やるせなくて、大声で叫び出したくなる。
何で、そういう純粋な人達が悲しい思いをしなくちゃならないんだろう?
どうしてそういう正直な人達が、辛い思いをしなくちゃならないんだろう?

そいつも、オレの友達も、思えばそんな奴だった。
ニューヨークに行ってからは消息不明で、ホームレスになっているという説もある。
ちょっと信じられないけど、あいつならあるかもな、と思ったりもする。
そのときはあんまり思わなかったけど、今ならあいつが「インディアン・ランナー」を好きだった理由も分かるような気がする。

悲しみを知っていたんだと思う。
人間の、どうすることもできない、終わらない悲しみを知っていたんではないかと思う。

不公平だ。この世の中は、公平ではない。
まじめな人が報われない。
純粋すぎる人達は、そうであるが故に辛い思いばかりする。
どうしてだろう? どうしてなんだろう?
誠実な人であればある程、不幸になる世の中だ。

もし神様がいるならば。
万能で、全能の、神がいるならば、一体どうしてこの世の中をこんなふうにつくったんだろう?
こんなにも不完全につくったんだろう?

それがみんなを苦しめる。みんなに辛い思いをさせている。
孤独で、ひとりぼっちの、悲しい世の中だ。
寂しい。とても寂しい。

ふと気が付くと、みんなの笑顔が思い出になって、自分だけが取り残されて、全ては過ぎ去った過去の海へと呑み込まれていく。

目が覚めると、家の中にひとりぼっちで誰もいなくって、とても静かで、この世界にたったひとりのような気がして、誰かに会いたくなって、話がしたくなって、落ち着きもなく右往左往する。
胸が掻きむしられるように痛くって、心細くって、とても不安で、誰かに抱き締めて欲しい。強く、しっかりと抱きしめて欲しい。

悲しみは、終わらない。寂しさは決して無くならないーーー

みんなの笑顔が、オレを苦しめる。
楽しかった思い出が、オレを苦しめる。
もう戻らないあの時間が、とても輝いてみえる。

インディアン・ランナーは、メッセンジャーとなって駆け抜けていった。
オレの心に何かを打ち込んで駆け抜けていった。
打ち込まれたそのものは、人間の悲しみの質量をオレに教える。
それは、打ち込まれた楔となって、いつまでもオレの心に残り続ける。

さとうりゅうたの軌跡
さとうりゅうた 最初は欧米諸国を旅するが、友人の話がきっかけでアジアに興味を抱く。大学卒業後、働いて資金をつくり、97年4月ユーラシア横断の旅に出る。ユーラシアの西端にたどり着くまでに2年を費やす。

「インディアン・ランナー」への1件のフィードバック

  1. はじめまして。ayaと申します。
    「インディアン・ランナー」の弟役を演じた「ヴィゴ・モーテンセン」の大ファンなのですが
    (ロード・オブ・ザ・リングのアラゴルン役です、ご存知かしら)
    ファン以外の方の感想を初めて読ませていただきました。
    私たちファンも常日頃思ってることを同じように感じてらっしゃる方もいらっしゃるのねと
    なんだかうれしくなってつい書き込んでしまいました。
    このヴィゴの演技は素晴らしいと思います。
    すごく切ないやりきれない映画なんですが、大好きな映画です。

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