運命的な出会いってあると思いますか?
私はパキスタンの山岳地帯、「風の谷のナウシカ」の「風の谷」のモデルとなったと言われるフンザで「運命的な出会い」を目の当たりにしました。
以下は私が遭遇した「運命的な出会い」をツイッターで少しずつ投稿したものです。この話はいつか書きたいと思っていました。
ツイッターの文字制限のため少し読みにくいですが、ご覧になってみてください。読み終わったら、奇跡を信じられるようになるかもしれません・・・
「春になるとね、フンザの谷は杏の花でピンクに染まるんだ。オレはそれまでにフンザに行くんだ」
ネパールで知り会った旅友が教えてくれた。12月のことだった。
まさに文字通りの「桃源郷」!春までまだ4ヶ月もある。
インドを見てからパキスタンへ向かえば、ピンクに染まったフンザ!
そのときはそう思っていた。
その旅友とは「フンザで!」と言って別れた。
「谷が一面ピンクに染まる風の谷フンザ」を教えてくれた旅友に、思いがけないところで再会した。
バングラデシュのダッカ。
旅行者など皆無のこの国での偶然。
再会に喜んだ後、彼はカトマンドゥでの悲しい恋物話を聞かせてくれた。
「一目惚れだったんだ・・・」
聞き間違いかと思った。
その旅友は男前だけどストイックで旅に対してポリシーのようなものを持っていた。
色恋にはあまり興味なさそうに見えたからだ。
ずっとこの話を書きたいと思ってた。
運命的な出会いなんて映画や小説だけの話とずっと思ってたから。
奇跡は本当に起こる。
旅をしてると信じられないようなことに遭遇する。
ダッカで再会した旅友の話は続く。
「ポカラでさ、日本人の女の子に声かけたんだ。何か強く惹かれるものを感じたんだ」
旅行で来てた女の子を見初めたらしい。
「話が合うんだ。次の日も会ったよ。
彼女がカトマンドゥに戻るという日、バス停で彼女が現れるのをずっと待ってたんだ」
「彼女に手紙を渡したんだ。俺の気持ちを綴った手紙をね。こんなこと初めてなんだけどさ。せずにはいられなかった・・・」
旅友は自嘲気味に語った。
この旅友は日本を発って既に1年が経過。
これから5年かけて世界中を回ると初めて会った時、話していたのを思い出した。
まだメールがなかった時代。
こちらからの連絡手段は1分の通話料がカトマンドゥの1泊の宿代と同じ国際電話か手紙。
日本からは在日本国大使館留めに送ってもらう手紙しかなかった。
ポカラで出会って少しばかりの時間を共有した。
それだけ。
彼の旅はあと5年続く。
それなのに想い伝える手紙を書く旅友を格好いいと思った。
そんな人に出会えた彼を羨ましく思った。
「旅人の悲しい恋物語」とこのときは思っていた。
もうすぐ2月になろうとしていた。
「谷が一面ピンクに染まる風の谷フンザ」の季節は4月だ。
「フンザで!」旅友に別れを告げた。
カトマンドゥで別れた時と同じように。
結局、4月の「谷が一面ピンクに染まる風の谷フンザ」に間に合わなかった。
インドに取り絡められてしまったから。
インドというところはけだるく、何もかもが億劫になって、時間の感覚が麻痺してくる国だった。
昨日と変わらない今日を過ごす、そんな日が続いた。
ようやくインドを脱出し、フンザのハイダー爺さんの宿に着いたとき、もう6月になっていた。
「風の谷」フンザはピンクじゃなかったけど緑と黄色の花で満ちていた。
これも悪くない。
いつものように宿の屋上から夕日に染まる谷を眺めようと屋上に登ったら、先客がいた。
「谷が一面ピンクに染まる風の谷フンザ」を教えてくれたあの旅友だった。
そうポカラで日本人の女の子に一目で恋に落ち、別れ際に自分の想いを綴った手紙を渡した旅友。
4ヶ月ぶり3ヶ国で3度目の再会。
信じられないような偶然が旅では度々起こる。
そしてもっと信じられないような話を旅友は語った。
「フンザの谷がピンクに染まる時期にぎりぎり間に合ったよ。この宿に着いて今と同じように屋上で夕日を眺めていたんだ」
「そしたらさ、オレの名前を呼ぶ声がするんだ。驚いて声のする隣の宿の屋上を見たら、あの子だったんだ。ポカラで手紙を渡した子」
「泣きながら『やっと見つけた』と言うんだ。
どういうことなのか、いったい何が起きたのか理解できなかった」
それは長いストーリーだった。
彼女はカトマンドゥから日本へ帰国した後、彼への膨らんでいく想いを抑えきれず、インドへ飛んだ。
彼がどこにいるかわからないというのに。
広大なインドでどうやって一人の旅人を見つけられるのというのか。
ポカラで彼と過ごしたわずかな時間、彼が語った旅の行き先。
その断片的な記憶を頼りに彼女はインドをさまよい、行く先々で「こういう人を知りませんか?」と尋ねまわった。
南インドに行って、海を越えてスリランカにも渡った。
彼が行くと言っていたから。
彼に会えることを信じて、広大なインドを唯一人、旅を続けた。
ひと月、ふた月と日々だけが過ぎていくが、彼に辿り着くことができない。
これだけ見つからなければ、あきらめて帰国してもおかしくない。
でも彼女はあきらめなかった。
あきらめるどころか国境を越えてパキスタンに入国した。
彼が語った行き先の一つに「谷が一面ピンクに染まるフンザ」があったから。
インドを一人旅という日本人女性旅行者は見かけるが、パキスタンを女性一人でというのはほとんど見かけない。
それがパキスタンという国。
彼女は杏の花が開き始め、谷がピンクに染まったフンザで待ち続けた。
来るか来ないかも定かではない一人の旅人を。
彼が語った「春になるとね、フンザの谷は杏の花でピンクに染まるんだ。
オレはそれまでにフンザに行くんだ」という言葉を信じて。
フンザに来て幾日が過ぎたある日の夕方、彼女はついに彼を見つけた。
宿の屋上で暮れなずむ空を眺めている彼を。
一途な想いが奇跡を起こした瞬間。
ネパールのポカラで出会い、別れた二人は、インド、バングラデシュ、スリランカを経て、4ヶ月後、パキスタンのフンザで再び巡り会った。
運命的な出会い。そういうものは確かにある。